音読

たぶん週刊ランラン子育て帖

どもんらんってどんな人?

2012年の1月、音読編集部のもとに赤ん坊が生まれました。名前はれんたろう。「にゃあ」というなき声がチャームポイントの男の子。新米ママ土門、今日も子育てがんばります。

30年ぶりのセボンスター

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廉太郎はもう11月からクリスマスプレゼントの話をしている。
ンタさんに頼むものとして、ガンダムのプラモデルやドローン、あとはなんとかいうロボットもいいなと言っていた。わたしは息子の物欲についていけない。よくもまあ、あとからあとから欲しいものが出てくるものだ。スーパーに行くたびに、おもちゃコーナーで熱心に手に取り眺めている廉太郎を見ながら、この物欲は尽きることがあるのかなと思う。物欲は変わらずに、対象が変わっていくだけなのかもしれない。

 

廉太郎が小学二年生になってから、お小遣いをどうするか考えるようになった。欲しいものがたくさんある子だから、欲しいと言う度に買い与えていたらきりがない。だからと言ってその欲を無闇に抑えつけるのもかわいそうだ。それならお小遣い制にして自由に使い道を考えられるようにしては?と考えた。
最初はお手伝いをしたらいくら、としていたが、だんだんと「お金がもらえないならやらない」態度になってきたのでやめた。家事を換金すると家庭内がギスギスする。だからと言って月々渡すのもまだ早い気がする。それでいまは「テストで100点をとったら100円」というルールにしている。100点は努力と運による賜物なので、換金化してもギスギスしない、ボーナスみたいなものだ。今のところこのルールがうまくわたしたちの関係にはまっている。

 

以来、廉太郎はかなりの頻度で100点をとるようになった。つまらないミスでチャンスを逃さないよう、意識して見直しをしているのかもしれない。満点をとれたら喜んで帰ってきて、そのたびに100円を渡す。彼は嬉しそうに、ポケモンボールにそのお金を入れている。

 

 

廉太郎は散々迷ったあげく、クリスマスプレゼントはガンプラにすることにしたらしい。サンタクロースへの手紙を熱心に書き、わたしにポストに投函してほしいと渡してきた。手紙を書いたらプレゼントをもらえるなんて、なんて素敵なシステムだろう。それはわくわくするだろうなと思う。急に羨ましくなり、「わたしもプレゼント欲しいなぁ」とつぶやいた。そうしたら廉太郎は、「おかあさんもプレゼントほしいんや」と驚いた顔をした。母親というものには物欲がないものと思っているらしい。わたしにだって物欲はある。

 

「じゃあサンタさんに一緒にお願いしたら?」
そう言われたので、「大人はもらえないでしょ」と答えた。
すると「じゃあ僕が買ってあげようか?」と言う。
「えっ、買ってくれるの?」
思いがけない言葉に驚いた。廉太郎はさも当然な顔で「うん」と言う。
「なにがほしいの? 人形? 宝石?」
その「人形」と「宝石」という言葉が、なんだか懐かしかった。まるで自分が、幼い女の子に戻ったような気持ちだった。
「宝石かな。キラキラした、きれいなものが欲しいな」
と答えると、廉太郎は「宝石かー」と腕組みをした。
「どこに売ってるかな? ライフにあるかな?」
ライフというのは、近所のスーパーの名前だ。

 

「うん、ライフにあるよ」と言うと「ほんと!?」と驚く。
「うん、ある。セボンスターって商品」
セボンスターはわたしが子供の頃から売っている玩具菓子だ。中にチョコレートひとかけらとネックレスが入っている。
「なんかそれ見たことあるかも! じゃあそれ買いに行こうよ」
廉太郎は楽しそうに言う。
「ほんまに買ってくれるん?」
「いいよ、ぼくお金持ってるから」
そう言って廉太郎は、ポケモンボールの中身を確かめた。270円。「買えるかな?」と言うので「買える」と答える。廉太郎は「じゃあ行こう!」と言い、わたしたちはさっそくその日の夕方にライフに向かった。

 

 

お菓子売り場で「どれ?」と聞かれてわたしはセボンスターを指差す。いつもとちぐはぐでなんだか恥ずかしい。

「ああ、これか!」
と言って廉太郎はじっくりと値段を見た。
「えーと、150円。150円なら、買えるな。よかったー!
「ちょっと待って。これ、中身何なんだろう? どのネックレスが入ってんのかな?」
わたしはあまりに久しぶりにセボンスターを手に取ったので戸惑っていた。細長い六角形の筒状の箱をためつすがめつし、中に何が入っているのかを知ろうとした。
「あれ、これ、中に何が入っているのかわからんのやな。えーもう、どれにしたらいいんかな?」
「ゆっくり考えていいから! ぼくもそういうときすごく悩む方だから、ゆっくり考えて」

 

わたしは思わず笑ってしまう。この子は、ものを買うときの高揚や喜びを知っている。だからわたしにもその喜びを分けようとしてくれる。すごいなぁ、と思った。大事なことを廉太郎は知っているのだ。単に物欲が強いだけではない。

 

 

廉太郎は、わたしがやっと選び取ったセボンスターをレジに持っていき、ポケモンボールからお金を出して買ってくれた。かわいいパッケージのセボンスターが小学生男子に買われる姿は、とても微笑ましいものだった。

 

 

家に帰って、さっそく箱を開けてみた。廉太郎が「早く早く」と言い、保育園から帰ってきた朔太郎が「さくも、さくもー」と言う。三人で覗き込むと、果たして箱の中には、ハート型のかわいいネックレスが入っていた
「見て、かわいい!」
そう言うと廉太郎が、「ほんまや、すげえ、キラキラしてる!」と言った。「おかあさん、キラキラしてるの欲しがってたもんな」と。

「買ってくれてありがとう、大事にする」

お礼を言うと、廉太郎がうなずいて、「いつもお世話してくれてるからさ」と言うので、また笑ってしまった。

 

 

スーパーで欲しいものを買ってもらうなんて、本当にいつぶりだろう。買ってほしいものを買ってもらうのはとても嬉しいことなんだなと、改めて思った。この喜びを教えてもらったから、今度からわたしも、「ゆっくり考えていいよ」と言えるようになるかもしれない。なれたらいいなと思う。「早く」と言わないで、「わたしもそういうときすごく悩む方だから」と。

 

初めて廉太郎が買ってくれたネックレスは、キラキラしていてとてもきれいだ。つけてみると廉太郎と朔太郎が「おー」と同時に言い、「かわいい」「かわいい」とてんでに言ってくれた。

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