音読

たぶん週刊ランラン子育て帖

どもんらんってどんな人?

2012年の1月、音読編集部のもとに赤ん坊が生まれました。名前はれんたろう。「にゃあ」というなき声がチャームポイントの男の子。新米ママ土門、今日も子育てがんばります。

子供たちがわたしを見ている

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うちのリビングには大きなテーブルがあって、わたしは1日の大半をここで過ごしている。仕事をしたり読書をしたりお茶を飲んだり。
子供たちもテレビを観る他はだいたいここに集まって、宿題をしたりお絵描きをしたりおやつを食べたりしている。

 

ときどき、仕事をしていると頭を抱えることがある。もう書けないだとか、やる気が出ないだとか。いつもスムーズに機嫌よく書いているわけじゃないし、むしろそんな時間なんてほとんどない。たいがいがうまくいかない時間だし、だからわたしはよくテーブルのところで苦渋に満ちた顔をしている。

そういうとき隣で遊んでいる廉太郎に「どうしたん?」と聞かれる。あわせて朔太郎も「どうしたん?」と。

「いや、なんでもないよ」と返し、ふたたび仕事に向かおうとするもやっぱりうまくいかないので、また頭を抱える。

すると廉太郎が「僕でよかったら話聞くけど?」と言う。朔太郎も「さくもー!」と言うので笑ってしまう。

それでなんとなく相談してみようかなという気になる。彼らはとても聞き上手だ。

 

このあいだもそんなことがあって、わたしが「あー」とため息をついていたら、彼らが話を聞いてくれた。

「なんでも相談に乗るで。お母さんはなにで悩んでるの?」と言う。

「そうやなあ、なんでこんなに悩んでいるのかなあ」わたしはそう言って考え、「本当はもっとたくさん書きたいのに、うまくいかないんだよね」と言った。

「なんかぜんぜん、思うように書けない」

廉太郎は「なるほど、それはつらいな」と言った。「うん、つらい」とわたしは答える。朔太郎はもう飽きたのかブロックで遊んでいる。

 

 

すると廉太郎が「僕からのアドバイスとしては」と言い出した。

わたしはとてもびっくりする。アドバイスしてくれるのか。

 

「ひとつめは、生活リズムをととのえること」

と廉太郎が言った。

「1日のスケジュールをたてて、それ通りに動くねん。毎日同じ時間に起きて、同じ時間に文章を書くようにする」

なるほど、とわたしは答える。「それは大事だね」と。

 

「もうひとつは、1日あたりどれだけ書くか決めること」

廉太郎は真面目な顔で続ける。

「1日にどれくらい書けばいいのか考えて、それを毎日ちゃんとやる。そうしたらいつか絶対に完成するやろ?」

なるほど、とわたしはもう一度言った。内心とてもびっくりしながら。本当にその通りだ。この子はなんでそんなことを知っているんだろう? 

 

「どう? 今ので悩みなくなった?」と廉太郎が言うので、「うん、なくなった」と答えた。

「ちょっとさっそく、手帳にスケジュールを書いてみるよ。廉太郎、ありがとう」

そう言うと廉太郎が「また困ったら、いつでも相談して」とちょっと照れ臭そうに言った。

 

 

「いいこと言うなあ、廉太郎は」

そう言って手帳を開いてスケジュールを立てていたら、ふと「あっ」と気づいた。

廉太郎が言っていた言葉は、わたしが夏休みや冬休みに彼に言い続けてきたことなのだった。

宿題の量が多いと言って泣いていた廉太郎にわたしはこう言った。

「まずは、1日のスケジュールを決めなさい。それから、1日やる量を決めて毎日続けなさい」

ちょっとずつでも毎日やれば絶対に終わる、とわたしは断言していた。

えー終わらへんよ、と言う廉太郎に、

「お母さんだって、そういうふうにして長い文章を書いているんだよ。見てみな、あの本」

と、わたしは棚に飾ってある分厚い本を指差す。

「最初は、あんないっぱい文章書けるわけないと思ってた。でも毎日コツコツ書き続けていたら書けたのよ。少しずつでもやっていけば、絶対にいつか終わるから」

すると廉太郎は、素直に本の背表紙を見つめながら「そっかぁ」と言った。

「お母さん、毎日書いてるもんな」

「そう、書いてる」

そのとき廉太郎のなかで、毎日ここで書いている母と、棚にある分厚い本が、つながったのだと思う。

だから廉太郎は、わたしが言ったことを覚えていたのだろう。わたしはすっかり忘れていたのに。

 

 

 

子育てって、親の姿を見せることなのかもしれない。

手帳にスケジュールを書き込みながら、そんなことを思った。

どれだけ口だけで立派なことを伝えても、わたしがそれを実行していなければ、子供にはきっと響かない。

自分が身を以て体現していることだけが、きっと子供にちゃんと伝わるんだろうなと思った。

 

廉太郎がわたしの手元を覗き込みながら、「僕も手帳ほしいな」と言い出した。

「一冊あげようか」と言うと「えっ、マジで!」と喜ぶ。

いただきものの手帳があったのでそれをあげたら、「うおー、初めての手帳だー」と笑っていた。

 

廉太郎はそこに読んだ本を記録するのだと言った。

「お母さんよりもいっぱい本読むねん」と、今年に入って読んだ本のタイトルを書き始めた。

それを見て「わたしも読んだ本のタイトル書こう」と真似をした。

 

向き合って真似っこをし合いながら、ああ、こういうふうに人は育っていくのかなと思う。

結局人に響くのは「より良くあれ」という言葉ではなく、「より良くあろう」とする行動なんだ。

「本を読め」ではなく自分が本を読むこと、「毎日やれ」ではなく自分が毎日やること。

それを目の前で見続けることで、多分子供は成長していく。

 

自分の「より良くあろう」という行動が、廉太郎の一部になっていて嬉しかった。

さあ、これからも頑張ろう。子供たちがわたしを見ている。

 

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