音読

俺のFavoriteTunes

どもんらんってどんな人?

音楽が生活をスムーズにしてくれる。
皿洗いや月曜日の出勤だってきっとスムーズにしてくれる。
芸能人と結婚したら「会社員の一般男性」と紹介される俺が、生活の様々なシーンに合わせて選んだお気に入りの曲をコンピレーションアルバムとして紹介します。
普段は一人称「俺」ではないし、芸能人と結婚する予定もないですが。

生活技術としてのお燗(by MASH) #みんfav

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今回寄稿をお願いしたのは、広島の誇る、そして県外音楽界隈にもその名の轟くレコードショップSTEREO RECORDSで働く青年、松島くん。知り合った頃は二十代半ばというところだったが、今や三十路(たぶん)。
SNSでは、音楽情報よりもグルメ投稿が多く、いいもの食ってんな、飲んでんなと思うことが多々ある。
特にナチュールと言われるワインのお店と日本酒が進む日本食のお店に顔がきくようで、今回の寄稿の依頼も、音楽の素地は当然あるものとして、テーマを冬に飲む日本酒、特に熱燗とした。ワインがテーマだと僕が書けそうにないから。
結果、取材と称して美味しそうな店を訪ね歩いており、『取材』の大切さを思い知っている。

とはいえ、実際にはこの寄稿の打合せと称して飲みにいったのがイベント以外では初顔合わせに近い。
もう一度は広島で慕っている先輩に誘っていただき、三人で無料ライブイベントを目指して福岡に行き、ついででIKEAや下関の唐戸市場で寿司を食べたことがある。
なんかズッコケ三人組感があって、ライブで何を見たか、何を食べたかはよく覚えていないけど、旅の『よさ』だけは覚えている。
(IKEAではパイプ椅子を二脚買ったことを覚えている、家に椅子があるから)

寄稿の依頼のあと、『音楽を生活の一部に』というブログのコンセプトが自分の考えと似ている、と言ってもらえたことがぼくの支えとなっている。
現在、原稿が最短明日、今日こそ、絶対今日と延びているところで、ぼくは「今日とは何ぞや」という禅問答を始めた。これには日本酒の助けが必要そうだ。
これを書き終える頃には本当の今日に辿り着いていることを信じている。(by いしなかしょうご)

 

ーー

 

いや~まいったなぁ~。熱燗をテーマにと言われたが全く何も見えてこない。

「とりあえず散歩がてら飲むか。飲んだら見えてくるはず。」と思い、

広島で旨いお燗が飲める店を飲み歩いた。

「よ~し!! 気分は池波正太郎モードだ。飲むぞぉー!!」

歩きながら俺がお燗が好きになるまでを思い起こした。

生活について考え、生活を楽しむ中でお燗に出会った。

というような、ま、つまらん話だ。

 

20代中半までは馬鹿みたいに大量のレコード買う生活だった。音楽にハマる人は大抵、メディア、映画、芸術、所謂カルチャー全般にハマりだす。兎に角「好きなカルチャー」を消費する事に満足の日々。しかし、ある日ふと「こりゃ吉田豪の言うようにサブカルは40超えると鬱になる」っと直感で思った。大量に消費した後に残ったもは結局虚しさだった。

ポストモダンが消費文化論と若者論と結ばれて語られた80-90時代から時はリーマンショック。2年後には東日本大震災。時代は変わったのだ。「前時代的な消費主義からの脱却とアンチテーゼ」あの頃はそんな事をぼんやり思っていた。無くしたピースを探すようにボードリヤールや原始仏典なんかを読み漁った。

後に佐久間裕美子著「ヒップな生活革命」に記された所謂「ポートランド的」なムーブメントがアメリカで見られるようになったのもこの頃だ。ポスト消費社会的な価値観、伝統的なカルチャーが見直す動きが目立つようになった。ビジネス界では三浦展氏の「第四の消費」やジョン・ガーズマ「スペンド・シフト」がヒット。ミニマリストというスタイルも出現した。

俺だけじゃなかった。

あの頃は間違いなく生活と消費を見つめ直す機運が世界的にあったのだ。

 

ある日、久々に三木清「人生論ノート」を読んでみた。

「娯楽について」という章にえらく感銘を受けた。

「娯楽が生活であり、生活が娯楽でなければならない」

「幸福についてほんとうに考えることを知らない近代人は娯楽について考える」

ディレッタンティズムのど真ん中に居た自分は雷に撃たれた。

探していたピースを見つけたと思った。

それ以来、自分にとっての娯楽は生活術そのものになった。生活に娯楽を見出す事により、娯楽と生活という二重人格的な隔たりが消えた。もう10年近く前の話になる。

衣食住の中でも、とりわけ食事は楽しみの中心になった。

そして出会った最高の相棒の一つがお燗だった。

 

日本人の食文化には「口中調味」という食べ合わせ文化があるが、

お燗もその中の調味料のようなものだ。

ぬか漬け、あたりめ、ししゃも、魚肉ソーセージ。缶詰。コンビニの焼鳥。

和食や伝統食は勿論、スパイスにもよく合う。

肴はもうなんでもいい。なんとでもない料理だって旨くなる。

だから、寒い季節に飲むというイメージだが、夏でも日常的に飲む。

お燗は最高の食中酒で毎日飲んでも飲み飽きない。

造り手もそんな気持ちを持っている人が多いのだ。

夫婦、恋人、友達。一緒に飲めば話は弾む。

暖かいお酒で暖かい気持ちになれる。素敵な時間が過ごせるはずだ。

シャイな日本人は酒を酌み交わせば、腹を割って話し出す。

柳田國男だったか、宮本常一だったか、そんな事を書いていた。

「ふぅ~」っと飲んだ瞬間、酒の旨味が身体に沁み、

口の中に続く長い余韻。最高の瞬間。

どれだけ忙しくても、お燗を付ければ心に余裕が生まれる。

余裕は作る物でもあり ”付ける” 物でもある。

僕はそう思うのだ。

 

いや~そうそう、お燗ってのはそ~いうもんなんだよな。

音楽が生活をスムーズにしてくれるなら、お燗は生活にゆとりを与えるっていうか。

日本の自然と人の歴史が育んだ、生活を楽しむ為の利器だよ。

いや~やっぱ飲み歩くと見えてきたな!

今回の散歩で回った旨いお燗が飲める広島のお店。

店主も音楽好きが多く、実際にお店で流れてたアーティストや店主と話題に上がった、勿論 ”俺fav” な曲を選んだ。いしおかさんは無音なので、この店での俺の心境変化に近いサウンドを選んだ。旨いお燗が飲みたくて、こんな音楽が聴きたければ是非足を運んでみてくれ。

今スグには役に立たなくても、旨いお燗を飲んだその経験がいつかきっとあなたの暮らしを変えるはずだ。

No.1
これさえあれば  /T’字路’s(中町 はせべ)
No.2
Don't say no/スピード・グルー&シンキ(上八丁堀 そらや)
No.3
Wires/Floating Points(段原 悠然いしおか)
No.4
Love Theme Spartacus/Bill Evans(府中町 STLAB)
No.5
Ganges Delta Blues/Ry Cooder & V.M. Bhatt(土橋 山椒魚)
No.6
One Love/Bob Marley(堺町 野趣 拓)
No.7
Hip Hop Hooray/Naughty by Nature(安東 あさ菜ゆう菜)
No.8
Pipeline/Jimmy Smith(基町 じ味 一歩)
No.9
まともがわからない/坂本慎太郎(新天地 むしやしない)
No.10
No Way Back  /Mystic Slot‎(田中町 音楽食堂ondo)

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