音読

たぶん週刊ランラン子育て帖

どもんらんってどんな人?

2012年の1月、音読編集部のもとに赤ん坊が生まれました。名前はれんたろう。「にゃあ」というなき声がチャームポイントの男の子。新米ママ土門、今日も子育てがんばります。

母親はポートランドに行きました

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先週の月曜から土曜日まで、会社の研修旅行でポートランドへ行ってきた。

 

ポートランド行きが決まったとき、まず「本当に行けるのかな?」と思った。

れんたろうを置いて5日間も家を空けることが可能なのか。

私がいなくても夫がいるし、夫方の両親も電車で40分くらいのところに住んでいるし、無理なことはない。でも、それはすごくハードルが高いことだと思った。

 

子供が生まれてから、何かをしたいと思ったときに

「でもそれは可能なのか?」

「そのためには何をしなくてはいけないのか?」

とすぐにブレーキを踏むようになった。

 

天秤の左に「したいこと」、右に「しなくてはいけないこと」を置き、

右側にはさらに「もし自分が出かけている間に子供に何かあったらという不安感」、「お願いする人に対する申し訳なさ」をおもりとしてプラス。

たいてい右側のほうが重たくなって、「したいこと」を我慢する。

「したいことをするために奔走したり心配したりするより、自分が我慢するほうが楽だ」と思うようになっていた。

いちばん身近な夫にも頼ったり甘えたりすることをあまりしなかったので、結果的にイライラして喧嘩になって、ストレスがたまる一方。

だからこの方法はあまりいいことがないなと思っていた。

 

だけど実は、右側が重たくなっていたのは、「不安感」と「申し訳なさ」が原因なのかもと思った。

つまり自分の捉え方が原因なのであって、実はそんなに奔走や心配もしなくていいのかもしれない。

「したいこと」を優先してもいいのかもしれない、と考えるようになった。

 

 

だから今回のポートランドの件は、そうとう右側のほうが重たくなっていたのだけど、「行かない」という選択肢をとるのはやめようと思った。

ここで自分が「(結構ハードルが高い)したいこと」をとったらどうなるんだろう?という壮大な実験である。

 

私は旅行に行くまでにいろいろな準備をした。

まず夫と相談をし、どこまでができてどこからができないのかを明らかにした。

それから夫方の両親や保育所に相談をし、登園時間をずらしてもらったり、保育所に持っていくものリストや注意点、地図などを用意した。

1日1日のスケジュール作りや、着るものの用意、先生への連絡、やることは次から次へ出てきて、なんか仕事の引き継ぎみたいだな、と思った。

 

そんな中、出発の3日前にれんたろうは熱を出した。

私の天秤は右側に大きく振れた。

「もし私が向こうに行っている間にこの子に何かあったら」

「連絡がきてもすぐに帰ってこられない」

私の頭の中は不安だらけで、「後悔したらどうしよう」という気持ちでいっぱいだった。

 

それでも行くと決めたので、私は気をとりなおしてどしんと構え、れんたろうの看病をした。

幸い次の日には熱が下がり、自分の荷造りを済ませることができた。

 

「れんたろう、ママはアメリカにいきます。

 1、2、3、4、5日間おうちにいないけど、毎日電話をかけるよ」

 

「ぼくもいく」

とれんたろうは言った。

 

「れんたろうは行けないんだよ。

 でも、ママがいない間パパとじいじ・ばあばが一緒にいてくれるから、

 全然さみしくないよ」

 

「いや。ママがいい」

 

「ママもさみしいけど、毎日れんたろうのことを考えるし、電話もするから、

 そんなにさみしくないよ。おみやげ何がいい?」

 

「…かめんらいだードライブ」

 

「うん、わかった。約束」

 

ポートランドでの1日目はれんたろうが心配でしかたがなかったけれど、

日を追うごとに私も夫もれんたろうも、みんながこの状態に慣れていった。

私はとても充実した5日間を過ごした。

知らない土地で言葉の違う人たちと話し、たくさん歩き、お酒を飲み、本を読んだ。

ひとりでベッドに大の字になり、眠り、目がさめて、天井を見ながら

「ああ、確かにこんな感じだったな」

と昔の生活を思い出した。

ここに自分のからだしかないという、心もとなく軽い感覚は、

本当に久しぶりだった。

 

 

れんたろうは祖父母の家で楽しそうにやっていたが、

ふと「ママにあいたいな」「ママに電話しようかな」と

言うことがあったらしい。それを聞いて、胸がしわしわになった。

 

家に帰るとれんたろうは眠っていた。

彼のほっぺたに思い切り頬ずりをすると、れんたろうは寝返りをうった。

私は夫に「ありがとう」と言った。

れんたろうも私も夫も、少し大きくなったみたいだった。

 

私はもっと人に頼れるんだ、みんな私を助けてくれるんだということがわかったし、

夫は自分もれんたろうをひとりで見ることができるということがわかったし、

れんたろうは母親以外の人とも楽しくやっていけるということがわかった。

夫方の両親には3日間お世話になったほか、保育所のママ友さんからも「ひとりもふたりも一緒だしうちにお泊まりにおいで」と声をかけてもらったのも嬉しかった。

私たちは閉じた関係からひらけた関係をつくることができた。

それはきっと私たちのささやかな自信になった。

それはささやかだけど、楽しく力強く生きていくために欠かせない自信だ。

 

 

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仮面ライダードライブの代わりに買ってきたお土産、オレゴンくん。

写真はアメリカ育ちのオレゴンくんを新幹線に乗せてあげるれんたろうです。

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