音読

たぶん週刊ランラン子育て帖

どもんらんってどんな人?

2012年の1月、音読編集部のもとに赤ん坊が生まれました。名前はれんたろう。「にゃあ」というなき声がチャームポイントの男の子。新米ママ土門、今日も子育てがんばります。

8歳と34歳の『すきノート』

S__8314883

廉太郎は8歳、朔太郎は3歳。

朔太郎はたどたどしいながらにもおしゃべりができるようになってきて、何をしても何を喋っても大変かわいい時期。廉太郎にももちろんそういう時期があって、その頃にはたいそう可愛がったんだよと彼に伝えるのだけど、わたしが朔太郎に無条件にニコニコしていることにどうも嫉妬してしまうらしい。

 

とはいえ、廉太郎はもう小学3年生なので、朔太郎と同じようにフィジカルに可愛がる時期は過ぎてしまったように思う。街中で手をつなぐことも、一緒にお風呂に入ることも、抱っこして眠ることも、自然としなくなった。

それでもときどき、朔太郎が抱きついてくるタイミングで控えめに一緒に抱きついてきたり、眠るときは何食わぬ顔で隣を陣取ったりする。ときどき「ぼくのお母さんやで」と朔太郎に釘をさすこともある。

わたしは一人っ子で、ずっと両親からの視線を独占できていたので、弟ができた廉太郎の気持ちをちゃんと理解することはできないけれど、想像するに複雑な心境なんだろうなあと思う。朔太郎みたいに猫かわいがりできないぶん、どこかでちょっと特別扱いできないだろうか、と考えていた。

 

そんなおり、Instagramを見ていたら、『すきノート』という本をどなたかが紹介しているのが目に留まった。谷川俊太郎さんの本で、片ページに好きなものについての質問が書いてあり、もう片ページに答えを書き込めるようになっているという。

帯にはこう書いてあった。

「こどもむきはひだりから おとなむきはみぎから」

つまり、本の表紙と裏表紙、どちらからも開けるようになっていて、子供と大人、ふたりで一冊の本が合作できるというのだ。

これはいいなと思い、Amazonでさっそく購入することにした。

「『すきノート』っていうのがおもしろそうだから、ママと一緒に書こう」

と言うと、廉太郎はパソコンを覗き込みながら、

「これ、僕とお母さんで書くの?」

と聞いてきた。

「そう。廉太郎とママとで、一冊の本をつくる」

すると廉太郎は飛び上がらんばかりに喜んで「めっちゃおもしろそう!」と言った。

それからというもの、「いつ届くのか」「まだ届かないのか」と廉太郎は毎日心待ちにしていた。売り切れていたので入荷待ちだったのだけど、一週間後にその本が届いたときには、廉太郎は大喜びだった。さっそく鉛筆を持って、そのノートに取り掛かった。

 

「いちばんすきなくだものなあに」という問いには「ぶどうです。」、「いちばんすきなおかしはなんだろ」という問いには「コーヒーゼリーです。大すきです。」。

「いちばんおいしいおりょうりなあに」という問いには「お母さんが作るハンバーグ」という答えとともに、ほかほかと湯気の立っているチーズハンバーグが描かれ、「いちばんすきなところおしえて」という問いには、「いえ。」と一言、そしてえんとつのついた家の絵が描かれていた。それらの答えを見ながら、わたしは思わず「うれしい」と言った。廉太郎は照れ臭そうに笑って、「えんとつ、ほんまはないけどつけてみてん」と言った。

 

答えの書き込まれたページをめくりながら、この子には好きなものがちゃんとあるんだな、と思った。そしてわたしは、そのうちのいくつかを作ってやれている。その事実はわたしにとって、本当に嬉しく、安心することだった。人は好きなものさえあればきっと生きていけるから、それは立派な財産だから、それを彼が持てていてそして自分が用意できていて、本当によかったと思ったのだった。

 

「ねえ、早くお母さんも書いてよ」と言うので、わたしもさっそく取り掛かった。

「一番好きな俳優」とか「一番好きな映画」とか、最初はすごく悩んだけれど、書き出してみればぽんぽんと名前が出てきた。

目の前に現れる「好き」の羅列を見ながら、わたしにはわたしの「好き」の財産があるのだなと思う。これらの好きなものにわたしは支えられて生きてきた。いつかこのリストを廉太郎が見て、興味をもってくれたらいいなと思う。

 

「一番好きな言葉」という項目に答えを書き込んでいたら、廉太郎が覗き込んで読み上げて、それから最後に「さすがに、文章書くのうまいなあ」と言った。多分、わたしが文章を書く仕事をしているからそう言ったんだろう。それを聞いて、「そうか、わたしはわたしの得意なことで彼とコミュニケーションをとろうとしていたんだな」と気がついた。顔をあげると、少し大人になった廉太郎の顔があった。

「次は僕が書く。そしたらまたお母さんが書いて」

わたしは「うん」と答えて、ノートを渡した。頭をなでるかわりに、抱っこするかわりに、自分が文字を書き連ねたノートを彼に手渡した。

 

それから、表紙にふたりで名前と年齢を書き込んだ。「れん太ろう8歳」「らん34歳」と書く。
すると朔太郎がやってきて、「さくもー」と言った。

「これはママとにいにのノートやで」

と廉太郎が言うと、朔太郎が怒り始めたので、

「朔太郎も8歳になったら一緒に書こうね」

と言って、朔太郎のために帯にパンダマークを書き込んでやった。朔太郎はそれですっかり満足したようで、「さくのパンダや」と笑った。廉太郎も、『すきノート』が守れたことが嬉しかったらしい。ふたりともニコニコしながら、それぞれのおもちゃへと取り掛かっていった。

 

年齢を重ねるにつれ、身体的なコミュニケーションはだんだんとれなくなっていく。でもそのかわりに、ちがうコミュニケーションがとれるようになるんだよなと、ノートをめくりながら思った。

今できるコミュニケーションはなんなのか、自分ができることや子供ができること、お互いが興味を持てることは何なのかを考えて、それを充実させていけたらきっとそれでいいんだろう。そしてその中で、できればお互いの好きなものを知ったり、増やしていけたらいいなと思う。

 

そしていつか、その好きなものを思い出すときに、わたしのことも一緒に少し思い出してもらえたらいい。わたしがいなくなっても大丈夫なように。好きなものが、ずっと子供たちを守ってくれるように。

 

2020年7月のアーカイブ

これまでの連載