音読

スタンド30代

論語に「三十而立」とあるように、孔子は「30歳で独立する」と言いました。
とは言え、きっと最初はうまく歩けないし自信をなくすこともあるだろう30代。
転職、結婚、出産と、覚悟を決めることが多くていろいろ微妙な30代。
でもきっと、その人の思想や哲学が純粋に表に出るだろう30代。
『スタンド30代』とは、そんな今を頑張って生きる30代を、30代になったばかりの土門蘭がインタビューする、「30代がんばっていこうぜ!」という連載です。

書き手:土門蘭プロフィール

【岩崎達也さん】いちばん幸せだったあの時よりも、絶対にもっと幸せになってやろう。

■話し手

岩崎達也さん 30歳

(株式会社ロフトワーク・プロデューサー、Editorial Haus Magazinn Kyoto・オーナー兼編集長、TONAKAI SIGNS・運営者兼プランナー)

 

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■プロフィール

岩崎達也

1985年兵庫県生。関西大学文学部卒。株式会社ロフトワークにプロデューサーとして勤務しながら、Editorial Haus Magazinn Kyotoのオーナー兼編集長、TONAKAI SIGNSの運営者兼プランナーとして個人でも活躍中。元野球少年。尊敬する人は、MITメディアラボ・副所長の石井裕さん。

 


 

岩崎くんは三足のわらじを履いている人だ。

一つ目は、クリエイティブ・エージェンシーである株式会社ロフトワークのプロデューサー。

二つ目は、今年の5月にオープン予定の、「宿泊できる雑誌・編集できるホテル」Magazinn Kyoto(マガザンキョウト)のオーナー兼編集長。

三つ目は、空間の課題を手描きのサインで解決する、TONAKAI SIGNS(トナカイサインズ)というチームの運営者兼プランナー。

 

二つ目と三つ目は、副業として岩崎くんが自ら立ち上げたサービスである。

つまり彼は、会社員として働きながら、個人的に二つのサービスを企画運営している。

 

これだけ書くと、華やかでばりばりのやり手な男の人をイメージしがちだけど、私の彼に対する第一印象は、「いつもにこにこしてる、優しげな元野球少年」だった。だから、何をしている人なのかを聞いて、正直驚いてしまった覚えがある。

この人は、内に何か秘めているのかなあと思った。そうでないと、会社員として働くのだけでも大変なのに、こんなにいろいろできないのではないかなあと。

 

彼の活動は華やかだ。だけど、その華やかな面だけでなく、いつか舞台裏の、「個人としての岩崎達也くん」の話を聞いてみようと思った。

 

取材日から書き起こすまでにずいぶん時間がかかってしまった。

その間に岩崎くんのマガザンキョウトは、クラウドファンディングで運営資金を募り、目標金額の200万円を達成。本当に数多くの方から注目を集め、巻き込み、オープンを心待ちにされている。

 

その底知れないエネルギーは、一体どこから来るんだろう?

というのが、今回のテーマです。

 


 

「ここで何かやろう」から始まったMTRL KYOTO。

土門
ロフトワークに入社したのは2014年の秋ですよね。ということは今年で2年目?
岩崎
ですね。
土門
普段はどんな仕事をしているんですか?
岩崎
ロフトワークではざっくり言うとふたつのミッションを抱えてて、ひとつはロフトワークが得意とするwebを武器にした企画立案・提案です。常にいくつか案件を持ってるんですけど、今は大手メーカーや西陣織のPRプロジェクト、れもんらいふデザイン塾の運営などを担当しています。
もうひとつは、ロフトワークの新規事業と言うんでしょうか、五条に昨年の12月にオープンした、オフィス兼サービス空間「MTRL KYOTO(マテリアルキョウト)」の建築担当をしていました。建築が済んで無事オープンしてからは、その運営に関わるプロジェクトの立上げやイベント企画を担当しています。
土門
あ、MTRL KYOTOでは建築担当だったんですね。
岩崎
建築についての専門的な知識を持っているわけでは全然ないんですけど、僕、自宅をこれまでに2回リノベーションしてるんですよ。社会人になってから2軒古いマンションを安くで購入して、自分の好きなようにリノベーションしました。以前住んでいた東京で1軒、今住んでいる京都で1軒。
ロフトワークは東京と京都に拠点があるんですが、僕は京都オフィス配属希望で面接を受けたんです。それまでロフトワーク京都ではweb制作を中心に行っていたんですが、社長ふたりとも「そろそろ京都らしいおもしろいことをしたい」という気持ちがあったみたいで。 それで、面接時に自宅をリノベーションをしていることとか、前職(リクルートコミュニケーションズ、楽天)でwebサイトや新規サービスを作っていたこととかを話したら、「だったらそれ全部活かして、うちで何か新しいもの作っちゃえばいいじゃん」みたいなことを言われたんです。
土門
その時はまだMTRL KYOTOの構想はなかったんですか?
岩崎
僕にもなかったし、向こうにもはっきりとはなかったみたいですね。面接のときに「実際どんなことやりたい?」って社長に聞かれたんで、妄想レベルですけど「DIY自由なアパートを経営してみたいです」とか言ったんですよね。住んでいる人が勝手に改造していい、人が住むたびに進化していくっていうアパートなんだけど。
面接では、そういう妄想をわいわい楽しく話して、結果内定をいただきました。その時に話した内容が、今のMTRL KYOTOに繋がっているなというのは思います。
で、入社して間もない頃に、社長から「こんな物件京都にあるんだけど、どう思う?」っていうメールが届いたんですよ。「何やろ?」って思いながら見に行ったのが、今のMTRLの物件。そのとき直感で「何かやるにはすごく良い場所だ」って思ったんでそう返信したら、「じゃあここで何かやろう」っていう返事がすぐに来たんです。

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▲京都五条にオープンした、クリエイティブ・コワーキングスペースMTRL KYOTO。 (Photograph by Nobukuni Omote)

 

土門
まだ「何をやるか」も決まってなかったんですね。
岩崎
うん、場所しか決まってなかったですね。でも、何かやるにしても、FabCafe(ロフトワークが運営している、「デジタルものづくりカフェ」)の京都版ってだけだったらおもしろくないから、新しい形のコワーキングスペースってどうかなと。材料がちゃんと揃っていて、手ぶらで来ても何か作れるっていう場所。社長やロフトワークメンバー皆でそういうアイデアをどんどん肉付けしていって、編集されて、MTRL KYOTOの構想ができていったという感じです。
僕は「建築担当」でしたが、建築のプロではないので、「建築家の方に伴走している人」みたいな感じでした。あともう1人、サービス設計の責任者がロフトワーク内にいるんだけど、彼と「サービス」「空間」の掛け合わせをやっていて、「サービスはこういう内容だから、じゃあ空間はこうあるべきだね」と詰めていく作業していました。そこで出た、「MTRL KYOTOをこんな場所にしたい」というのを噛み砕いて、建築家にきちんと伝えてディレクションをするのがミッションでしたね。
今はMTRL KYOTOで、イベントの企画や運営に携わっています。

好きな人と、好きなことを、好きな場所でやる。

土門
ロフトワーク、マガザンキョウト、そしてトナカイサインズと、会社勤めも目一杯しながら、並行して自分のサービスも進行していて、…よくできるなあというのが率直な感想なのですが。
とりあえず、忙しいでしょう?
岩崎
うん、大変ですね(笑)。
土門
マガザンやトナカイサインズといった、個人の活動はいつやってるんですか?
岩崎
基本的には、朝夜と休日にやってます。徹夜はしないですね。ちゃんと寝ないとダメなタイプなので。だからと言って詳細なスケジュールも組まないし…「今できるかも!」っていう時にノリと勢いでやることが多いです。
土門
すごく簡単に説明させていただくと、マガザンキョウトは「泊まれる雑誌」がコンセプトのホテル。そしてトナカイサインズは、「気持ちのよい暮らしの導線を」というコンセプトで、空間の課題解決をするサインを提供するチームです。
岩崎くんはいろいろやってるように見えるけれど、MTRL KYOTOも含め、実は共通のキーワードがあるような気がしていてるんですね。それは、「空間」というキーワードなんですけど。
岩崎
そうですね。ロフトワークは副業OKなので僕もいろいろやってるけど、いつもとっちからさないように「軸」を大事にしようって思いながらやってます。
自分の中では、今言われた「空間」も含めて、全部を繋げるキーワードがあるんです。それは「好きな人と、好きなことを、好きな場所でやる」ってことで。

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 ▲マガザンキョウト店内の様子。シーズンごとに特集が組まれ、テーマに沿った体験ができるホテル。宿泊だけでなく、グッズ販売やギャラリー展示なども行う予定。

 

スクリーンショット-2016-05-23-13.31.09▲トナカイサインズのポートフォリオより。「注意書きにもユーモアを」をモットーに、アイデアのあるサインを添えることで、より快適で心地よい空間コミュニケーションを生み出す。

 

土門
人・こと・場所、ですよね。確かに、岩崎くんは「ものづくりの人」っていうんではなく、「化学反応を起こす人」っていうイメージです。
活動内容を見てると「華やか」で「リア充」で「ばりばりのやり手」って感じがするんですけど、初めて会った瞬間はそういう印象がなかったんですよね(笑)。第一印象の控えめな感じと、実際の行動のイメージが、結構かけ離れてたんです。だからなおさら、「どういう人で、どんなことを考えているのかな」と気になっていて。
このインタビューはサービス内容云々よりも、岩崎くんの暮らし方というか、仕事やひいては人生に対する考え方について聞きたいと思っています。
岩崎
なるほど(笑)。どうぞどうぞ。

大学時代は、『いい会社』に入ることばかり考えていた。

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土門
学生の頃から、今みたいにいろんな人と何かするのが好きだったんですか?何か、こう言ってはあれですが、やりたいことが明確な、いわゆる意識の高い大学生だったのではないかなと。
岩崎
まあ、一言で言うと、大学時代は「しょうもない小器用な学生」でしたね(笑)。いろいろそつなくやってるけど、別に何かに突き抜けているわけでもない、みたいな。とりあえずいろんなことに手をつけてて。
大学では文学部で人文情報コースというところに所属していたんだけど、そこで何か人文らしいことを学んだかというとそんなことは全然なくて、とにかく「いわゆる『いい会社』に入る術」ばっかり学んでました。一回生の頃からそればっかり考えてて。
土門
そんな若いうちから、『いい会社』を目指してたんですか?
岩崎
はい。自由な大学生活に放り込まれたのに、ほんと、『いい会社』に入るための努力ばかりしてましたね。セミナーやインターンへの参加、英語の勉強、留学…全部「『いい会社』への就職」というゴールのためにやってました。
‘85年生まれの僕たちは、不況しか知らない世代じゃないですか。「希望に溢れる未来」というイメージを、描けたためしがない。その中でも、自分は将来に不安を感じてる方だったと思います。何か、漠然とした不安が常にあったんですよね。強迫観念的に。
土門
私も同い年だけど、そういう強迫観念的な危機感はなかったですね…。岩崎くんのその未来への危機感は、どこから来るんだろう。
岩崎
僕、高校まで野球やってたんですよ。小さい頃から「プロ野球選手になる」ってずっと思ってて、そのためだけに生きてきてたんです。でも、高校3年の時に怪我して、野球ができなくなっちゃった。
野球選手になるためだけにずっと生きてきたので、それがなくなった瞬間、本当に「何も残らない」っていう状態を味わったんです。最初は何とかなるって思ってたんだけど、やっぱり何ともならなくて。そのときの絶望感というか、喪失感はものすごかったですね。
土門
これまですべてをかけてきたものがなくなっちゃったという。
岩崎
うん。すごくでかい穴が空いてしまったような感覚で、その穴を埋めてくれるものを必死で探してました。今でもそれを探し続けているんじゃないかな。だからこんなにいろんなことをしているのかも。それくらい、僕にとっての「野球」はでかかったんです。
推薦入試で、こう言っちゃ何ですけど当たり障りのない大学への入学が決まって、「ああ、このまま何となく過ごしてたら、俺は何もできないまんまだな」ってすごく不安になったんです。それで、「野球」の代わりに「就活」で穴を塞ごうと思ったんですよね。そしたら「野球」の代わりに、一生かけてがんばれるものに出会えるかもしれないって思って。
土門
なるほど。でも、その穴を埋めてくれるのは『おもしろい会社』ではなかったんですね。高いお給料が出て、知名度もあってっていう、いわゆる『いい会社』に入りたかったんですね。
岩崎
僕、両親とも公務員なんですよ。そこそこ安定した家庭で育ったんだけど、ふたりとも全然仕事がおもしろくなさそうだったから(笑)、公務員になるのはやめようって昔っから思ってて。
それでいて、僕はめちゃくちゃ安定志向なんですよね。というか、お金がない状況になることを極端に恐れてるところがあるんです。
土門
でも貧しかったわけでもないですよね…何でそこまでお金がないことが恐いんでしょう。
岩崎
何でだろう、親がすごく倹約家だったからかな。欲しいものを買ってもらえなかったのが、すごくストレスだった。その反動か物欲が半端なくて、欲しくなると絶対に手に入れたくなってしまうんですよね。だから、とりあえず給料の高いところっていうのが大前提でした。
なので、「『いい会社』に入りたい」っていうのばかりで、「こういう仕事がしたい」とかいうのは全然なかったんです。「コミュニケーションを作る仕事がしたい」とかいろんなことを言ってたけど、本当に腹落ちしていたかと言われると疑問で。
土門
それでも、就職活動はうまくいったんでしょう?
岩崎
うん、ありがたいことに複数の企業から内定はいただいて、悩んだ末に、リクルートコミュニケーションズ(旧リクルートメディアコミュニケーションズ)に入りました。
収入や仕事内容ももちろん魅力的だったんだけど、とにかく「人」がずば抜けてたんですよ。リクルートの人たちって、みんなとにかく生きる力がすごくて、一緒にいると圧倒されちゃう。ジャングルにぽいって放り込まれても太って帰ってきそうな(笑)、一見つまんないことも全部おもしろく捉えなおせるような人たちで。「この人たちと一緒にいたい!!」ってすごく思ったんですよね。

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これまでの連載

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